連載 | #6 「AnimeJapan 2017」特集

海賊版対策の協議会に西川貴教が加入「官僚や政治家もリテラシー向上を」

中国では、監督の過去作を海賊版で見たファンが『君の名は。』を観に押し寄せた

古澤佳寛さん

そして、ここからはトークセションということで、全員が着席して今後のMAGPの活動についてなど、話を展開していく。

カウンシラー就任についての感想を求められた西川氏は、カウンセラーの責務にやる気を見せる。

「僕自身、以前にはアニメ制作現場のスタッフ皆様の地位向上や環境の整備に携わる、文化庁の『アニメミライ』という実験的なプロジェクトにも参加させていただきました。

『アニメミライ』から生まれた『デス・ビリヤード』や『リトルウィッチアカデミア』といった作品は、地上波で放送されたりしています。今度は、そういった皆様が愛情を持っているコンテンツを日本やそれ以外の国でも楽しんでもらうとなった時に、作品をキチンと守っていくことに注力していくべきだと思っています。

それも、単に締め付けるのではなく、もっとたくさんの国や地域で楽しんでもらうという“扉を開いていく作業”として、いろんな意見交換の場に参加させてもらえるのは、非常に嬉しいです。僕が肌で感じたものも、委員会にお伝えしていければ、と考えています」(西川氏)

その後、古澤氏が海外を中心としたデジタル海賊版の氾濫について、話を展開する。

「アニメーションを海外で広めていくには、もっと広く手軽に、時間差がない形で正規流通できる環境をどんどんつくっていき、現場も含めて、海外からの利益を還元できるような収益構造をつくらなくてはいけない。

海外のファンも、違法で見たくて見ているというわけではなく、とにかく作品を探していたら出会ってしまったわけなんです。海外だと、海賊版で視聴したことを監督本人に無邪気に言ったりしますよね(苦笑)。

君の名は。』でも、中国では、新海誠監督の過去作を非正規のルートで見たファンが劇場に押し寄せてくれた。どこかで作品を見ることで、興味を持ってファンになってくれる。この流れを全部、公式で作れるのがベストだと思います。それは一社だけではできないことなので、国の力を借りながら業界を挙げてやっていこう、と。この先、海外に広がっていかないと、日本のアニメーションのさらなる発展はないと思うので」(古澤氏)

『なんとなく予算をつければいいだろう』というクールジャパンのリテラシー向上を

こうした話を聞くと、ひところ「クールジャパン」と持て囃された日本のアニメ輸出も完全に成功したとは言い難いのかもしれない。西川氏もこうした現状を認識し、鋭く切り込む。

クールジャパンの施策って、わかりにくかったり不透明なものも多かった。一部では、国から予算を引っ張ろうとするだけで、実際の活動につながっていないものもあったり…。だから、『なんとなく予算をつければいいだろう』ではなく、経産省官僚の方や政治家の方ももっとアニメを見ていただいたり、そういったリテラシーを一緒に上げていければと思います。

そして、ユーザーとしても、キチンとクオリティの高いものが提供されているのか見定めていかないといけない部分もあるのかもしれない」(西川氏)

こうした西川氏の指摘に、桶田氏は前述の「正規流通の促進」の取り組みのひとつ『デジタル戦略ワークグループの開催・運営』を挙げて応える。

桶田大介さん

このワークグループでは、ひとつの事業者では対処が難しいテーマについて、“具体的に国にやってほしいこと”を取りまとめて要望を出すといった活動を行っているのだ。このように、MAGPでは公・民が手を取り合って、「海賊版対策」「正規流通の促進」を進めている。

そのほか、国によって字幕版と吹き替え版の需要が違うといった話題や、北米に次いで世界2位の映画市場となっている中国についてなど、議論は広がりを見せた。そして、最後に登壇者によるコメントも。 「この後、一年間、西川さんにはさまざまな場でメッセージを出してもらうことになっています。MAGPは(アニメ業界の)黒子ですが、協議会として、みんなで取り組むテーマなどを相談してやっていければと思います」(桶田氏)

「東宝も5年前にアニメの専門部署を立ち上げて、この5年間で海外がより近く、収益源としても非常に大きくなってきました。どんどん人口が増えている中国や、日本のアニメが受け入れられつつある韓国はブルーオーシャンだと考えています。今後、アジアのファンはアニメから垣根を越えて、日本の文化にも触れていってくれるでしょう。こういった市場開拓はエネルギーが必要ですが、10〜20年たった後、やっておいて良かったとなるはずです。なので、僕らのエネルギーを全面的に注いでいこうと、今回参加して改めて思いました」(古澤氏)

「MAGPは、ちょっと堅苦しいネーミングだったり経産省のプロジェクトだったりと、どうしても眉間にしわを寄せた厳しいイメージがあるかもしれません。でも、作り手が命をかけた作品を、正規のより良い形で届けたい。それを手助け、応援していきたいというプロジェクトです。なので、このプロジェクトを通して、日本のモノづくりの意識みたいなものが世界中にまっすぐ伝わっていければいいな、と思います」(西川氏)

こうして、40分に及ぶ「Manga-Anime Guardians Project 〜西川貴教カウンシラー就任式〜」は幕を閉じた。発足5年後となる「Manga-Anime Guardians Project」に、西川氏が参加することで、より外に向けた活動も期待できるはずだ。今後の「Manga-Anime Guardians Project」の活動にも引き続き注目したい。
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