イラストレーターであるために
──かなり現実的かつ客観的に仕事を捉えている中で、イラストレーターとして仕事のために意識していることはありますか?loundraw 常に感性を新鮮な状態にしておくことですね。いろいろな方々と仕事する中で、専門的なスキルにおいては、自分より優れている人がたくさんいるんです。例えば、人の動きだったらアニメーター、背景なら背景美術。
そういう意味で、イラストレーターは何が評価されているのかと考えたときに、自分の中にあるフィルターのようなものが、ほかの人に比べて新鮮という点が評価の対象かなと。つまり、単純な技量以上に、内面的な部分を更新し続けることだと思います。
──“フィルター”とは具体的にどのようなものでしょうか?
loundraw 卒業式とか特別な日だと、いつもの景色でもちょっときれいに見える──そんな感覚です。普遍的なものゆえに忘れがちではあるけど、改めて見ると「そういえば、いいよね」と思えるようなものを表現したいです。 loundraw ただ、そのために何か特別なことをしているわけではないんですよね。外に出たときに「いい天気だな」「この景色はいいな」とか、日常的にきれいな瞬間や場面を探すようにするくらい。その積み重ねがあるからなのか、しばらく絵を描いてなかったりしても、いざ描き始めると「あ、ちょっと上手くなってる」と感じることはあります。
僕自身、いわゆる普通の人間、例えばカレーやハンバーグが大好きな人間です。あえて普通と違う点を挙げるとすれば、「なぜ好きなのか?」という理由を突き詰めて考えるということ。普遍的な要素を掘り下げていくからこそ、フィルターがいろいろなジャンルで活用できるのかもしれません。
理論的な描き方から生まれる「理由」
──loundrawさんのイラストは、いずれも日常的な美しさが際立っているように感じます。透明感や空気感と評されることも多いですが、イラスト制作全般において、表現上のこだわりを教えてください。loundraw まずは見る人、読む人のことを考えます。どんな人が見て(聞いて・読んで)、そのイラストを僕が描くというのはどういうことかを、すごく考えます。
そのうえで、描かれている対象に理由をつけることですね。例えば、笑顔の女の子が桜並木で振り返っているとします。それだけだと、手前に大切な人がいるのかなと思いますけど、もし携帯を持っていて、画面に「ライブ当選」と表示されていたら、「当選に喜んでいるのかもしれない」と思うじゃないですか。
ほんの少しの情報の有無だけでも、見た人に伝わる意味合いが大きく変わってくるので、何を伝えたいのか、伝えるために何が必要なのか、理論的にきちんと考えるようにしています。
loundraw 僕自身、透明感のあるきれいな景色が好きなので、そういったものを表現したいという面はあります。
一方で、人間は結局のところ、本人以外その人が何を思っているかわからないじゃないですか。笑っていたとしても、内面では相反する感情を抱いているかもしれない。そんなことを考え出すと、自分の思想も含めて何が正しいんだろうと思ってしまって。
そういう意味で、僕自身も理由がちゃんとあるものを無意識のうちに欲しているから、表現の中にも必然性が現れているような気がします。
──カメラの表現で用いられる被写界深度(ピントを合わせた部分のピントが合っているように見える範囲)のような表現手法も、理由を欲している点と関係しているんでしょうか?
loundraw あれはですね……手間が省ける(笑)。細かく描かなくても良く見える。というのも理由があって、ぼかし表現ができる一眼レフカメラって、単純な金額面だけでいうと結構高額なので、そうやって撮影された画像は高級志向の象徴なんです。 loundraw 「クオリティが上がって(見えて)、かつ作業量が減る、つまりは1枚あたりの制作スピードが上がる、いい!」──当初はそう思って使い始めたんですけど、徐々に省いていいものとダメなものがあることに気づいて。加えて、人物と背景の間の距離に応じてぼかしの強度も変わってくるので、逆に必要な知識が増えて、むしろ勉強になっていますね。
例えば、立体感は省略できない要素かなと思います。その面にある細かな装飾は必要なかったとしても、光が当たっている面積やその明るさの違い、そういった本当に大まかな情報をきちんと描き込めば、省略しても……というか、省略するからこそ視線が誘導されて、伝わりやすくなることもあるんじゃないかと。
──そういう意味では、先日リリースされた三月のパンタシアのアルバム『あのときの歌が聴こえる』のジャケットも、ややぼかされた桜の木やキャラクター3人の視線など、見る側の視線がよく考えられているように思います。 loundraw キャラクターが顔を見合わせている、というシチュエーションを描くことは少ないですね。1枚の絵としてというよりも、「仲のいい3人」みたいな方向に意識がいってしまうので。
──光の差し込み方もすごくきれいですが、実際に写真を撮って参考にしているんですか?
loundraw よく言われるんですけど、写真を参考にして描くのは結構稀ですね。『君の膵臓をたべたい』の表紙とか、本当にフォトリアルなものが必要とされた場合はトレースしたり、資料を見たりしますけど、基本的にはすべて頭の中でイメージしたものです。 loundraw 目にした景色が印象的だと、すごく頭に残るタイプみたいで、ある場所で見たきれいな風景とかそのときの光の差し方とか、そういうのを思い出しながら描くという感じです。
──比較的、人物を描く機会が多いと思いますが、描くうえで一番好きな箇所やパーツはありますか?
loundraw 個人的な趣向でいえば足ですね。でも、これは本当にフェティシズムとして、造形的に好きなだけです(笑)。
描くという意味では、やっぱり表情や仕草ですね。同じ笑い方をしていても、キャラクターによって心象の現れる度合いが違ってくるし、それが1ミリや2ミリとか、細かな差で表現できるのが面白いなと。 loundraw 結果的に、表情には一番時間をかけています。デジタルの場合、理論上はどこまでもズームできるので、それこそ0.何ミリの違いとか、デジタルだからこそ時間をかけるべきところだと思います。
なかでも、いろいろな感情に見える表情が好きなんです。明確に意識してというわけではないですけど、シンプルな笑顔よりも、ちょっと意味深な表情のほうがすごく想像がふくらむじゃないですか。
もちろん、仕事によってという前提はありますけど、自由に描いていいときは、見た人によって複数の感情に結び付けられる、余白のある表情がいいかなと。まぁ……単純に自分の好みというだけかもしれません(笑)。
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