OSTER project × Hommarju x P*Lightインスト音楽座談会 打ち込みの限界を目指した15年だった

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最適化させようとすると似通った作品が増えてしまう?

P*Light BEMANIじゃないけど、最近の音ゲーの中だと「SOUND VOLTEX」はすごく面白いと思います。今までの音ゲーは「ボタンを叩いて音を出す」ことで「完璧に演奏する」のが本来の目的だったけど、ボルテは「もともとある曲にエフェクトをかけていく」というところが新しいですよね。それこそミニマルテクノみたいな、まったく変化のない曲にエフェクトをガンガンかけていくこともできるかもしれない。

だけどおそらく、ゲームに使用する楽曲の公募では、そういった単調な曲は通らないんですよね。審査する側は当然「ゲームとしてわかりやすく面白いかどうか」を基準に選ぶ必要があるから、自然と高難易度で、リズムの緩急や曲構成が似通った曲が増えてしまうジレンマが生まれる可能性はどうしてもあるんですよね。

Hommarju それはその通りかもね。

OSTER 音ゲー全般に言えますが、メーカー側の意図や依頼どおりにつくろうとした結果、楽曲が似通ってしまうのと一緒ですよね。「高難易度の曲」だったら必ずBPM170以上推奨、みたいな。

──音ゲーに限らず、ランキングや公募の傾向を読んで、ユーザーや運営が求めているものに最適化させると、集まった作品が似通ってしまう事態はしばしば起こりますね。でも、逆にその制約の中でこそ生まれるオリジナリティーはないんでしょうか?

OSTER ありますよ。ありますけど、その条件下でバリエーションを持たせようとするのはとても難しくて、ある意味「大喜利」に近い感じですよね。

P*Light 結局、アーティストとしての自分のオリジナル曲じゃなくて、楽曲制作の発注を受ける場合って全部そうなのかもしれませんけどね。クライアントの要望にはもちろん答えつつ、自分の個性もしっかりと織り込み、両方の落とし所を探るような。

OSTER 依頼側の要望が「こういう曲をつくってほしい!」というぼんやりしたビジョンだった場合、それをさらに超えるようなものを提示していけるスキルが必要で、それがめちゃくちゃ難しくもあるのですが……。

P*Light 逆に「自由につくってください」と言われたのに、何度もリテイクがくることもありますけど(笑)。

──「BPM」と言えば、Hommarjuさんは楽曲制作にあたって最初にBPMから決めるんですよね。

Hommarju 制作を始めたばかりの、音楽の構成すらもわからなかったときにはほとんど感覚でやっていましたが(笑)。今は曲をつくるとき、ある程度は「こういうBPMで」と頭のなかで決めてから取りかかるので、あまりブレることはありません。

ただ、僕も「BPMいくつ以上」という指定がきた時は悩みます。BPMが早すぎるのも好きじゃないんですよ。その時々の動向を読んでトップを狙えば似通ってくることも確かにあるかもしれないけど、自分としてはあまりそういうところには参入したくない。みんなが速ければ少し遅めにしたり、自分が好きな部分もきちんと取り入れていかないと、そもそも自分がやる意味がないですし。だから単に「BPMを上げてください」と言われると、僕の中ではすごい葛藤があります。

人間の限界値がゲームの難易度と共に上がっている?

OSTER でも、なんだか最近、全体的にBPMがどんどんインフレしてませんか? BPM160は普通に考えればアップテンポの部類に入るはずなのに、音ゲーだとむしろ遅い、ミドルテンポ的な扱いになっているように感じます。

私の中では200がボーダーラインでしたけど、それすらも今となっては当たり前という印象で……。BPMが200を超えると、もう8分の縦連打※3がキツいんですよ、私。歴代のBEMANIに何度も収録されてる「Take It Easy」という曲があるんですが、あれも辛い。「なんでこの速さで16分のトリル※4させるの!?」みたいな。

※3 縦連打:同じ鍵盤を連続して叩かせる譜面の配置。縦に並んだオブジェを連打することから
※4 トリル:2つの鍵盤を交互に叩かせる譜面の配置。元は音楽用語

Hommarju そうそう。あまりに速すぎると、人間の限界が来るので(笑)。いわゆる「押せる人」と「押せない人」に分かれてしまうんですよね。僕は「押せない」ほうだったので、それならもっと、みんなが遊べる曲をつくりたいと考えています。

──音ゲーとしての競技性の方が重視される傾向にあるってことですよね。

OSTER そうですね。めちゃくちゃ上手い人もいるんですけど、私もいつからかその難しさについていけなくなった部類だから、すごくわかる。私は「beatmania IIDX 12 HAPPY SKY」に収録された「冥」ANOTHER※5を見て、心が折れた(笑)。

※5 ANOTHER: beatmania、beatmaniaIIDXにおける譜面の種類。難易度が格段に上がるもの、別のパートを演奏させるもの、曲自体が変化するものなどがある

P*Lightさん

(一同、笑)

OSTER それまではたとえクリアできなくても、頑張れば、なんとかギリギリ演奏はできるくらいの曲しかなかったのにね。10年くらい前にそれが出た瞬間、演奏すらできない、何が起こっているのかすらわからない感じになってしまって……絶望を味わいました(笑)。

P*Light それが今や、クリアできる人もたくさん出てきているからおそろしい……。

OSTER 人間の限界もゲームの難易度と一緒に上がってるっていう……!

──娯楽性と競技性を満たさないといけない音ゲーならではの、クリエイターさんの葛藤があるんですね…。

音ゲーに頼らないといけないインスト音楽

──BEMANIもインスト音楽が多いですが、今の日本の音楽シーンにおいて「インスト音楽」の位置付けはどうなっているんでしょうか?

P*Light 日本で「売れた」インストアルバムを挙げるとすると、いわゆる有名なオーケストラやピアニスト作品くらいだと思います。逆に僕らが打ち込みで制作して表現するような音楽は、基本的には売れないという印象。ただ唯一それを聞いてもらえる土壌として、「音ゲー」が機能していると思うんですよね。

日本では歌モノがほとんどだから、「こんな曲ができました、聞いてください」ってポンと出しても、やはりインストは見向きもされない音楽なんですよね。その時、「音楽ゲーム」というプラットフォームを通すと、単にクリアの対象というだけじゃなくてしっかりとインスト音楽を聞いてくれる人たちが少なからずいる。ファンが進んでインスト曲を聞くような土壌を日本につくった音ゲーは、すごいと思います。

OSTER だって、それこそ仕事としてインスト楽曲をつくらせてもらえる機会なんて、BEMANIに関わらせてもらうまで一度もなかったですから。

P*Light でも一方で、「音ゲー」に頼らないといけないという状況も健全じゃないですよね。だから「音ゲー」という枠を飛び越えて、もっとインスト曲をたくさんの人に届けるためにはどうすればいいのか、打ち込みでインストをつくっている人間全員が考えなきゃいけない課題です。音ゲーだけじゃなくて、ゲーム音楽もそうだけど、インストが売れるのってたいていゲームと関連した時だけなんですよね。

Hommarjuさん

Hommarju そういう意味だと、EDMが世界的に流行したことも、少しは影響ありますよね。EDMも広い意味では歌モノだと言えるけど、別に歌や歌詞を聴かせたいわけじゃない。10年前くらいのトランスのように、ボーカルも音のひとつに過ぎないという印象もあります。だから、歌唱じゃなくて純粋な音の連なりであるインストと通じる部分はあると思うんです。

P*Light でも、やっぱり「インスト音楽」と、EDMやダンスミュージックって、やっぱり別物だと感じないですか?

Hommarju それもわかる(笑)。EDMは、音を聴かせるというよりも、体験させる・踊らせることに比重を置いているからですよね。

P*Light そう、だからEDMとインスト音楽とは、通じあうものはあるけど別々の系譜にある、というか。

──EDMはいまだに一部フェスと相性がいいけれど、インスト音楽は別の方向を模索しないといけない、ということですね。

Hommarju 当然、音楽シーン全体で見れば、「ボーカル」という表現ありきの音楽が大勢を占めているのは間違いありません。なぜなら、音だけでは伝わらないケースの方が多いからです。「これはこういう意図を込めてつくった音だ!」と説明しても、聞いてる人には「ただのギターじゃん」としか思えない。

でもボーカリストは、「歌詞」によって言葉そのものを表現して伝えることができる。コンポーザー(作曲家)である僕たちの意図を汲み、変換したうえでメロディに乗せて歌ってくれる「代弁者」のような存在だと考えていて、代弁者が前に立ってくれた方が、もちろん伝わりやすい。それでも、僕の場合はボカロも通っていないし、声や詞ではなく音でしか自分の思いを表現することができないからインストをつくっている

OSTER それは私も同じです。ボカロにはボカロでしかできない表現が、インストにはインストにしかできない表現があるから、私はこれからもインスト音楽をやっていきたい。

P*Light でも、極端な話、浜崎あゆみさんのことはみんな知っているけれど、その歌をつくっている人のことは多分、ほとんどの人が知らないのではないかと思います。僕らはまさにその立場にいるので、仕事をもらって食べていくためには、どうやってアーティストとしての自分を知ってもらえるかが重要になってくるんですよね。

ボーカルがない「インスト音楽」のコンポーザーとしては、これからの戦い方を考えなければならない段階に来ているようにも感じています。自分たちの音をどのように聞いてもらうか、うまく伝えるにはどうすればいいのか、考え続ける必要がある。そういう意味でも、今回のようなインスト曲が主体のアルバムをOSTERさんが出すことには、すごく大きな意味があると思います。

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